A Labor Consultant's Story
札幌大通こぐま社会保険労務士事務所 所長 特定社会保険労務士 辻田 亜紀子
執筆編集:北川総合研究所

Prologue
特定社会保険労務士。宅地建物取引士。保育士。警備員指導教育責任者。
ひとりの社労士が、なぜここまで畑違いの資格を集めてきたのか。答えは単純で、机の上で分かったふりをしたくなかったからだ。
辻田亜紀子は、労務トラブルの相談に乗る前に、まず自分自身が保育園のスタッフとして、警備員として、現場に立った人間である。法律を知っているだけの社労士ではなく、現場の空気を吸ったことのある社労士。このものがたりは、その意外な回り道の記録である。
2005 - 2006
旭川市生まれ。札幌の進学校・札幌市立旭丘高校を卒業し、2005年、北海道大学文学部に入学する。周囲から見れば、順風満帆な滑り出しだった。
しかし辻田は、大学に合格したその先で違和感を覚える。「ここにいる自分は、本当に自分の意志で選んだ道の上にいるのだろうか」。
2006年3月、入学からわずか1年で大学を中退。この決断こそが、のちに「労働者一人ひとりの違和感を、見過ごさない社労士」の原点になる。エリートコースの真っ只中で立ち止まれる人は、実はそう多くない。
2006 - 2009
大学中退後、辻田は誰もが驚くような時間の使い方をする。前半は、自分が本当にやりたかったこと──音楽制作──を徹底的にやり尽くした。後半は一転して、資格取得のための勉強を徹底的にやり込んだ。
中途半端を良しとしない性格は、この「振り切り方」によく表れている。目的が定まっていない時期にこそ、何かを本気でやり尽くす。これは後年、独学で難関資格を次々突破していく彼女のスタイルの原型となった。
2010 - 2011
2010年1月、行政書士試験に合格。これを皮切りに、同年11月には社会保険労務士試験、翌2011年1月には日商簿記1級、同年11月には実用英語技能検定準1級と、わずか1年半で四つの資格・検定に立て続けに合格する。
特筆すべきは、その合格が「独学」かつ「最小の教材」によるものだったことだ。予備校のフルコースに頼らず、必要なものだけを見極めて最短距離を進む──このノウハウは、後に彼女自身が講師として教える立場になったとき、受講生たちの熱い注目を集めることになる。
資格コレクション
2011 - 2017
社会保険労務士試験に合格した時点で、将来は自分の事務所を持つことも考えていた。しかし当時まだ二十代前半。十分な社会経験もなく、明確なビジョンも持てなかった辻田は、資格はそのまま保持し、あえて開業を急がない道を選ぶ。
2011年、東京リーガルマインド札幌校の講師に就任。同時に株式会社ユーキャンでも講師、さらに校閲や試験問題作成まで担当するようになる。独学一発合格のノウハウを持つ若手講師として、受講生からの信頼は着実に厚みを増していった。

2013 / 2016
ここに、辻田亜紀子という社労士を語るうえで欠かせない転換点がある。
2013年、講師として順調にキャリアを積んでいたにもかかわらず、辻田は「労働分野の専門家として、自分は十分な労働体験を積んでいない」ことに気づく。そして選んだのは、資格を活かした仕事を増やすことではなく、家族が経営する保育園で、いち保育スタッフとして働くことだった。
さらに2016年には、株式会社全日警で警備員としての実務を経験する。国家資格を持つ講師が、あえて資格の要らない現場仕事に飛び込む──普通なら逆行に見えるこの選択が、後の彼女の事務所の強みを形づくることになる。
法律の条文ではなく、現場で流れる時間そのものを、身体に刻んでおきたかった。
今、こぐま社労士事務所が医療・警備・保育・飲食・建設・不動産といった幅広い業種の顧問先を持つのは偶然ではない。辻田自身が、保育園のフロアに立ち、警備の現場に立った経験があるからこそ、それぞれの職場が抱える固有の悩みに、机上の理論ではない言葉で応えられる。
2017.8.1
31歳の誕生日を目前に控えた2017年8月1日。ようやく独立開業への意志が固まり、明確なビジョンが生まれたことから、辻田は札幌市中央区大通西16丁目に『札幌大通こぐま社会保険労務士事務所』を設立し、自ら所長に就任する。
大学中退から11年。回り道に見えたすべての経験──音楽制作に打ち込んだ日々、独学で駆け抜けた資格試験、講師として積んだ場数、そして保育園と警備の現場で流した汗──が、ここで一本の線としてつながった。

2018 - 2026
開業後も、辻田の「現場に立ち続ける」姿勢は変わらない。行政の相談員、業界団体の専門講師、成年後見人、そして地域メディアへの登場まで、活動の幅は年を追うごとに広がり続けている。
Now
事務所のモットーは「ほっこり、安心」。辻田はこう考えている。
使用者と労働者は、利益相反の関係にあるのではない。同じ方向を見て、一緒に利益を生み出していく関係だ。
こぐまのロゴマークは、辻田の家族が描いてくれたものだという。やる気に満ち溢れた、こぐまのロゴ。気軽に仕事を頼めて、そばにいると心強い存在でありたい──忙しい依頼者に代わって、こぐまが働く。
大学を中退した20歳の違和感も、資格だけでは満足しなかった講師時代の葛藤も、あえて選んだ保育園と警備の現場も。すべては「働く人と、その職場に、本当に寄り添う」という一点のために積み重ねられてきた回り道だった。
これからも辻田亜紀子は、法律書と同じくらいの熱量で、現場に足を運び続ける。